イサーン ?

美しい高原地帯が広がるタイの東北地方。この地は古くからサンスクリット語で東北部を意味する“Ishan”を語源とする、“イサーン”という名称で呼ばれてきました。


イサーンは広大なメコン川の流れを挟んで、ラオスとカンボジアに隣接する地域。この地に暮らす人々の強い家族の絆や賑やかな民族音楽、印象的なお祭り、シンプルで美しい伝統衣装などはよく知られおり、その文化は長くタイの人々に愛されています。また誠実でホスピタリティに溢れる気質を持つイサーンの人々は、客人をいつも温かな心と開放的な精神でもてなすことでも知られています。

そして、忘れてはならないのが素晴らしいイサーン料理の数々です。今やタイ国中、どこへ行ってもイサーン料理を提供している店があり、ソムタム(パパイヤサラダ)やもち米、スパイシースープ、グリルチキンなど、イサーン料理を代表するいくつかのメニューは、タイ料理の中でもとくに人気が高く世界各国で愛されています。シンプルな調理法と食材の複雑な組み合わせから生まれるイサーン料理はとくに辛さを重視しており、素晴らしい味わいのバランスを感じた直後に口の中に強い刺激が広がることも。それはとてもユニークかつエネルギッシュな体験であり、同時にイサーンの人々にとってはごくシンプルな“おいしさ”でもあるのです。

もしイサーン料理が存在していなかったら、“ガストロノミーの冒険”とも言えるような、現在のタイ料理の発展はきっと起こらなかったことでしょう。イサーンでは古くからシェアする、という食文化が深く根付いてきました。テーブルの中心にさまざまな種類の料理を並べ多くの料理をシェアして食べることで、一人一品の時とは違うより大きな満足感を得ることができるのです。朝、昼、夜を問わず、いつでも家族や友人たちとたくさんの料理を囲める。そのスタイルこそがタイ人にとって本物のイサーン料理の形なのです。また、イサーン料理はポーションが小さいため、一人で食事をする時でさえいくつかの料理を楽しむことが可能です。

多くのイサーン料理の中でも、ソムタムはタイ人なら必ずと言っていいほどオーダーするはずせないメニューです。カニから麺まで、さまざまな具材と組み合わせることで、無限のバラエティが生まれるソムタム。そのソムタムにグリルチキンやラープ、スパイシースープ、もち米を合わせるのがイサーン料理の王道とも言える組み合わせです。かつては手で食べていたイサーン料理ですが、現在ではスプーンとフォークを使って食べるのが一般的となりました。

歴史と素晴らしい味わいを持つ料理である以外に、イサーン料理にはヘルシーである、という一面もあります。ほとんどの料理にはフレッシュな野菜やハーブ、ボイルまたはグリルした肉が使われており、とてもバランスのいい食事が取れるのです。健康にいいだけではなく、香りのいいスパイスやハーブ、そしてシンプルかつフレッシュな素材を重視して生み出される文化遺産としての価値もある伝統料理、それが本当のイサーン料理なのです。